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1999年のIPニュース
1999年11月30日米改正特許法案、ついに成立!!!
昨日1999年11月29日(米国時間)、改正特許法案を含む包括法案にクリントン大統領が署名しました。毎年、法案が出ては潰れていた米特許法の改正が、長年かかって遂に成し遂げられた訳です。関係者の多大なる努力の成果を評価したいと思います。
ただ、日米合意の履行にはまだほど遠い感もあります。特に早期公開制度の導入と呼ぶには、「外国出願された米国出願に限って公開する」というのでは、実効性がありません。また当事者系再審査制度の導入についても、後の訴訟を禁じられる等制限が多く、どの程度活用できるのか未知数です。今後は、各規定の理解と検討が必要でしょう。
また、署名日をもって法は成立しますが、今回の法案では各規定ごとに効力発生時期が異なりますので注意が必要です。(成立までの経過について、若干訂正しました。)関連情報
・"PRESIDENT SIGNS LANDMARK PATENT REFORM/TRADEMARK CYBERPIRACY LEGISLATION!!", IPO Daily News (Nov. 30, 1999).
http://www.ipo.org/whatsnew.html
・John Schwartz, "Satellite TV Carriers To Get Local Stations: New Federal Law Ends Restriction", Washington Post; Page E04 (November 30, 1999).
http://search.washingtonpost.com/wp-srv/WPlate/1999-11/30/121l-113099-idx.html
(衛星放送関連法案にクリントンがサインした旨を伝えるニュース)
・Bill Summary & Status for the 106th Congress: H.R.3194
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/bdquery/z?d106:HR03194:@@@L
(H.R.3194 の現状。最下部「Executive Actions」の欄で、11月29日に大統領の署名を得たことが確認できる。)
・S.1948, Title IV- Inventor Protection
http://www.ipo.org/One_Pager_on_PB2.htm
(IPOによる改正法の要約)
・S. 1948, Intellectual Property and Communications Omnibus Reform Act of 1999
http://www.aipla.org/html/S.1948IS.html
(法案全文のHTML版)
1999年11月21日(法案成立の過程について若干修正しました。こちらをご覧下さい。また法案の内容(特に効力発生時期)については、HR1907の概要をご参照下さい。なおHR1907と、今回可決されたS3194とは基本的に同じですが、細部において若干異なりますのでご注意下さい。)
米改正特許法案、上院を通過
1999年11月19日、改正特許法案を含む包括法案が上院で可決されました。米国連邦議会の今年の会期も終わりに近づき、休会までほとんど残っていなかったため、今回の法案の行方が全く読めない状態でしたが、今年の議会最後の日に他の法案と抱き合わせる形で無理矢理上院を通過させたような格好です。
当初下院を通過した法案HR1907は特許法改正のみを主眼にしたものでした。しかし、上院との両院協議会で難航したため、これを衛星放送関係法案(HR1554)に抱き合わせて包括法案とされました。ところがこれも難航したため、最終的には歳出予算案に組み込まれたようです(HR3194)。いずれも下院では既に可決されていました。関連情報
・S. 1948, Intellectual Property and Communications Omnibus Reform Act of 1999
(法案全文のHTML版)
http://www.aipla.org/html/S.1948IS.html
・John Schwartz, "Senate Passes High-Tech Bills", Washington Post (November 20, 1999).
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A25047-1999Nov19.html
・Dugie Standeford, "Senate Oks Spending Bill With Satellite TV, Internet, and Anti-Cybersquatting Provisions", E-Commerce Law Weekly (November 23, 1999).
http://www.lawnewsnetwork.com/stories/A10127-1999Nov22.html
1999年9月1日米改正特許法案について
1999年8月4日、改正特許法案HR-1907「1999年米国発明者保護法(AMERICAN INVENTORS PROTECTION ACT OF 1999)」が、紆余曲折の末無事下院を通過しました。これが成立するためには、まだ上院の通過と、さらには大統領の署名が必要であり、成立そのものが不明な上、将来変更される可能性もありますが、以下主要な改正点を列挙します。
第1章 発明者の権利(Inventors' Rights Act)
・発明振興サービス(Invention Promotion Services、多くは詐欺まがい)と称する業者に対し、契約等の開示を義務化し、このような業者の活動を規制するもの
・顧客、すなわち善意の発明者に対する契約条件等の公開
12ポイント以上の太字で契約書の表紙に「あなたには契約を中止する権利があります。...過去5年間で業者が査定した発明の総数はXXXXXで、このうち良い査定を得たものはものはXXXXXあり、悪いのはXXXXXです。...あなたが権利の一部でも業者に譲渡した場合、あなたの同意なく業者はその発明を転売もしくは分配する権利があり、その利益をあなたと分配する義務はありません。...過去5年間に業者と契約したお客様の総数はXXXXX人です。このうち、業者の力によって支払額以上の利益を得たお客様は○人です。業者の努力により実施契約が成立したお客様は○人です。」云々の定型文を明記
・開示義務不履行に対する厳罰
・詐欺にあった発明者は、契約の無効と5000ドルもしくは実際の被害額以上の損害賠償および弁護士費用を民事訴訟により請求可能、三倍賠償もあり得る第2章 先使用の抗弁(First Inventor Defense Act)
・ビジネスの方法や関連商品(特に金融業、ソフト産業)は最近まで特許にならないと考えられていたが、CAFCによる1998年のステート・ストリート・バンク判決(State Street Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc.)により特許可能であることが確認されたため、これらを従前から商利用していた米国の発明者と、その後に特許を取得した者との均衡を図るため、先使用による抗弁を認めるもの
・他人(後の特許権者)による特許出願日の1年以上前から、善意で(in good faith)米国において発明を現実に実施化(actually reduced ... to practice)した者、あるいは出願日前から米国において発明を商業的に使用(commercially used)していた者に、抗弁が認められる
「商業的使用(commercially used and commercial use)」とは、...を除き、問題となる技術的事項が一般公衆に利用可能であるか、さもなくば知られているかを問わず、有用な結果物(useful end result)の内部的な業務利用(internal commercial use)もしくは独立した現実の販売(actual arm's-length sale)その他独立した商業移転(arm's-length commercial transfer、譲渡)に関するものでなければならない(法案202条、改正特許法273条(a)(1))。
・非営利の研究機関、団体(大学、研究所、病院等)の使用も該当(法案202条、改正特許法273条(a)(2))
但し継続的使用、研究機関や非営利団体内での使用のみに制限
以降の商業化や外部での使用には適用されない
・ビジネスの方法(a method of doing or conducting business)に限定し、物は対象外(法案202条、改正特許法273条(a)(3))
但し、発明が方法か否かの判断はその本質に基づいて行うものとし、クレームの形式によるものでない。例えばステート・ストリート事件ではビジネスの手法が装置(programmed machine)としてクレームされていたが、この発明が方法として容易にクレーム可能であったときは273条でいう「方法」に該当する。
・出願日は、有効出願日(effective filing date)であり、現実の米国出願日より早い、もしくは優先権主張の基礎となった日(法案202条、改正特許法273条(a)(4))
・立証責任
本条に基づく抗弁を主張する者は、明白かつ説得力のある証拠(clear and convincing evidence)によって抗弁を立証する責任を負う。(法案202条、改正特許法273条(b)(4))
・抗弁の立証ができなかった場合は、弁護士費用を負わされる例外的事件(exceptional case)とされる可能性あり(法案202条、改正特許法273条(a)(8))
・この抗弁が成立しても、そのことのみによって特許を無効とするものではない(法案202条、改正特許法273条(a)(9))
現行法下での疑義を排除するもの
現行法下では滅多に争われていないが、他人の特許出願よりも前に秘密状態で発明を商業利用し、しかも先に発明していた者が、斯かる特許を102条(g)により無効と主張することができる。秘密状態で発明を商業利用することは102条(g)でいう「発明の秘匿もしくは隠蔽(suppression or concealment of the invention)」に該当しないと議論できる余地があるので、先発明で特許を無効にし得た訳である。
・施行日から有効だが、施行日において係属している訴訟や従前の判決宣告(adjudication of infringement、同意判決(consent judgment)含む)には適用なし(法案203条)第3章 権利期間の保証(Patent Term Guarantee Act)
・以下の場合に日単位(one day for each day)で特許権の存続期間を追加(法案302条、改正特許法154条(b)(1)(A))
(1) 出願から審査開始まで14ヶ月以上経過
(2) 出願人の応答から次のオフィス・アクションまで4ヶ月以上経過
(3) 特許発行料の納付から特許証発行まで4ヶ月以上経過
・上記と別に、特許庁で3年以上係属していた出願にも別途権利期間を追加
(法案302条、改正特許法154条(b)(1)(B))
出願人の応答に3ヶ月以上要した期間分は除外、但し出願人の相当の注意にも関わらず応答に3ヶ月以上要した場合は該当せず
継続出願に要した期間は含まれない((i) any time consumed by continued examination of the application requested by the applicant under section 132(b)(?))
・特許発行前に特許庁が出願人に延長期間を通知、不服申立の機会
・不服のある特許権者は、特許発行後180日以内にワシントンDC連邦地裁に民事訴訟を提起可能(法案302条、改正特許法154条(b)(4))第4章 外国出願済の米国出願公開(Publication of Foreign Filed Applications Act)
・原則、すべての出願を18ヶ月後に特許庁は公開
・公開後も公開出願に関するいかなる情報は、長官が定める場合を除き一般公衆は閲覧できない(※包袋閲覧は従来通り不可、秘密保持義務)
・意匠出願、仮出願は対象外
・係属しなくなった出願、秘密命令に係る出願は公開されない
・出願人が外国で出願しておらず、かつ多国間条約に基づく出願(multilateral international agreement、PCT出願等)もしていない旨を請求すれば、公開されない
・出願人が後に外国出願した場合、45日以内に特許庁に通知する義務(違反した場合出願は放棄、不注意の場合は復活可能)
・請求により18ヶ月以前に公開可能
・外国出願の内容が米国出願よりも狭いとき、外国出願に含まれていない事項を米国出願から削除したものを公開可能
希望する場合は出願人が作成し、出願日から16ヶ月以内に提出
・特許庁長官は、出願人の同意なく特許付与前のいかなる異議申立(protest or other form of pre-issuance opposition)を行うことを禁じる手続を制定可能
(※将来、公開出願につき情報提供を禁止することも可能?)
・公開により仮保護の権利(provisional rights)発生(法案404条)
実施料相当(reasonable royalty)を請求可
権利行使には、公開公報の提示によって侵害者が現実の通知(actual notice)を受けている必要あり
国際出願で英語以外で公開されている場合は、英語翻訳文
公開出願のクレームと特許後のクレームが実質的に同一の場合にのみ適用(...the invention as claimed in the patent is substantially identical to the invention as claimed in the published patent application)
特許発行後6年以内に実施料相当額を請求
・本法施行日から1年後に有効(法案408条)第5章 当事者系再審査任意手続(Optional Inter Partes Reexamination Procedure Act)
・「特許訴訟低減法(PATENT LITIGATION REDUCTION ACT)」という名が示す通り、再審査に第三者が参加できる機会を拡充して再審査制度の実効を図り、もって訴訟件数の低減を図るもの
∵現行の再審査制度は1980年に導入され、特許法第30章に規定されているが、再審査の手続開始後は第三者の参加が完全に排除されてしまうため、あまり活用されていなかった。よって、従来の査定系手続の再審査を残しつつ、新たにオプションとして当事者系手続による再審査を導入しようとするもの
・第三者は従来の査定系再審査、もしくは当事者系の再審査のいずれかを請求できる。
・当事者系再審査を選択した場合、特許権者が特許庁に対し応答する度毎に書面により意見を述べることができる。
特許が有効であると審査官が判断した場合には、当該決定に対し審判請求することも認められる。
ただし、CAFCに控訴することはできない。(法案505条、改正特許法134条(b))・特許権者に対する嫌がらせ的再審査を防止するため、再審査請求人は利害関係のある真の当事者を明らかにしなければならない(匿名不可)。
・当事者系再審査に参加した第三者は、当該再審査手続中に提起した、あるいは提起することができた争点につき、以後の裁判所への提訴および当事者系再審査請求を禁じられる。
再審査中で決定された事実に関しても、後に不服を申し立てることができない。
但し、当事者系再審査の査定の時点で知り得なかった情報に基づき、誤りであることが証明された事実については除かれる。(法案507条)
・本法施行日から1年後に有効(法案508条)第6章 特許庁の効率化(Patent and Trademark Office Efficiency Act)
・特許庁を商務省指揮下の一機関として独立させる
管理運営は特許庁自身の責任で行い、予算管理は独立
商務省長官による政策上の指針を除き、商務省の過剰管理(micromanagement)を受けることなく運営
・組織体系の改革
主要ポストを、知的所有権専任商務省長官兼特許商標庁長官(Secretary of Commerce for Intellectual Property and Director of the United States Patent and Trademark Office)、長官代理(Deputy)、特許部門長(Commissioner of Patents)および商標部門長(Commissioner of Trademarks)に名称変更(改正法案全般にわたり、特許庁長官を従来の「コミッショナー」から「ディレクター」に変更している。)
・特許公衆諮問委員会(Patent Public Advisory Committee)および商標公衆諮問委員会(Trademark Public Advisory Committee)の設立により、政策、目標、効率、予算、料金等の監督(法案614条)
・本法施行日から4ヶ月後に有効(法案631条)第7章 雑則(MISCELLANEOUS PATENT PROVISIONS)
・特許実務家の手続における煩雑さを低減
・仮出願に基づく優先権主張における係属性の要件削除
正規出願提出のための12ヶ月後の最終日が、土日、祝日の場合における提出期限の翌営業日までの延長(法案701条)
・電子出願、公開の承認(法案704条)
・現行特許法103条(c)の適用除外規定に、従来の102条(f)、(g)に加えて(e)を追加(法案707条)関連情報:
・AMERICAN INVENTORS PROTECTION ACT OF 1999 (Engrossed in House)
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/z?c106:H.R.1907:
・H.R. 1907 as Passed by the House (8/6/99)
(PDFファイル。レターサイズで106頁もあるので、上記HTML版をお勧め)
http://frwebgate.access.gpo.gov/cgi-bin/getdoc.cgi?dbname=106_cong_bills&docid=f:h1907eh.txt.pdf
・AMERICAN INVENTORS PROTECTION ACT OF 1999 -- HON. HOWARD COBLE (Extension of Remarks - August 05, 1999)
(1999年8月5日付議事録(Congressional Record)のE1788-1793ページ。下院司法委員会報告書(House Judiciary Committee's report)が提出された後、H.R.1907法案の内、2章(先用権)、5章(再審査)、6章(特許庁)が補正されている。知的財産権小委員会コーブル議長(IP Subcommittee Chairman Howard Coble)によるこれらの説明。PDFファイルも利用可能。上記法案名をキーワードにして検索。)
http://thomas.loc.gov/home/r106query.html
106会期より"patent"で検索したもの
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/r?c106:patent::
・Michael J. Mehrman, "HR 1907 The American Inventors Protection Act of 1999: a gand compromise in the making" Intellectual Property Today (August, 1999).
・ステート・ストリート・バンク事件
State Street Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc., 149 F.3d 1368, 47 USPQ2d 1596 (Fed. Cir. 1998).
http://www.ipo.org/97-1327.htm
・Dunlop Holdings v. Ram Golf Corp., 524 F.2d 33, 188 USPQ 481 (7th Cir. 1975), cert. denied, 424 US 985 (1976).
1999年8月31日
再審査の新ガイドライン
少し前になりますが、特許庁は1999年3月31日、ポートラ・パッケージングCAFC判決を受けて改訂した再審査請求のガイドラインを発表しました。
ご承知の通り、再審査は誰でも請求できますが、これを請求するためにはクレームの特許性に影響を与える先行技術文献(特許または刊行物)が必要です。この際、「特許性に関する新たな実体的問題("substantial new question of patentability")」を提起しなければなりません。新ガイドラインでは、再審査請求の資料にできる文献についての指針が示されています。
今回の新ガイドラインを要約すると、先行技術文献が「特許庁における以前の手続において」「明示的に根拠とされた」ものである場合、特許庁はこのような文献のみに基づく再審査を命じない、としています。また、たとえ文献が明示的に根拠とされていなくても、当該文献が引用されており、さらにいずれかのクレームの特許性に対する関連性が現実に議論されたことが書面上記録されている限り(actually discussed on record)、特許庁は再審査を命じないとしています。
ここで、特許庁における以前の手続とは、原審査の審査記録、再発行の審査記録、以前の再審査手続の審査記録を含みます。
ポートラ・パッケージング判決では、既に審査で検討された文献を再審査において繰り返し引用できないとCAFCは判示しています。しかし、特許庁による同判決の解釈では、「文献の繰り返し」とは文献の文言がほとんど同一の場合の、極めて限られたものになる模様です。おそらく、再審査を過度に制限しないようにするための配慮と推測されます。いいかえますと、(特許庁の意志に関わらず)再審査を禁止される事態をできるだけ排し、特許庁の裁量で再審査を命じることが可能なように、もっと言えばたとえ先行技術が既に記録されたものであっても、特許庁が必要と感じたときにいつでも再審査を命じることができるように、適用の自由度を持たせたと見ることができるかもしれません。
本ガイドラインは将来MPEPに編纂されると思われますが、さらに修正される可能性もありますし、CAFCによる判例変更もあり得ます。
また、8月4日に下院を通過した改正特許法案では、再審査に第三者が参加できるオプションが検討されています。これらの詳細は、次回ご報告いたします。関連情報:
・1999年3月31日付官報第64巻第61号(ポートラ・パッケージング社事件に鑑みた事案における再審査指針)
Guidelines for Reexamination of Cases in View of In re Portola Packaging, Inc., 110 F.3d 786, 42 USPQ2d 1295 (Fed. Cir. 1997)
1999年8月27日均等論と禁反言の議論、再び
このところCAFCでは特許法112条第6段、いわゆるミーンズ・プラス・ファンクション・クレームと均等論の関係についての議論が活発で、ワーナー・ジェンキンソン対ヒルトン・デイビス・ケミカル事件の最高裁判決に続く均等論と禁反言の議論については小休止という印象でしたが、久方ぶりにビッグニュースが出ました。
1999年8月20日、CAFCはフェスト対焼結金属工業事件の大法廷による口頭審理の申立を受理しました。本件は、ワーナージェンキンソン事件を受けて、オール・エレメント・ルール(All Element Rule、いわゆる構成要件毎の判断基準)に従って再審理するよう最高裁からCAFCに差し戻されていた事件の一つです。
本件では2件の特許権侵害について争われていましたが、本年4月、CAFCはオールエレメントルールに従って審理しても、一方の特許権につき均等論侵害が成立すると判断しました。この際、幾つか興味ある判示がニューマン判事によって示されています。
・拒絶理由に対する応答でない自発補正の場合は、禁反言は必ずしも働かない。
・クレームの各構成要件とイ号のそれとが一対一に対応していなくても、均等論侵害は成立する。
(この事件についての詳細は、こちらをご覧下さい。)
これに対して、被告側焼結金属工業社がCAFCに再審理と大法廷による審理を求める申立(combined petition for panel rehearing and rehearing en banc)を提出しました。その結果、上記判決は破棄され、CAFC判事全員が参加する大法廷で審理し直すことが認められたものです。
ここでは、これまで問題とされていた争点がまとめて取り上げられており、その行方は非常に興味あるところです。本件の判断がCAFC全員法廷で下されれば、均等論と禁反言について現在CAFC判事の間で意見の割れている問題に対し、ある程度明確な回答が得られることでしょう。1.クレームに関する補正が、審査経過禁反言を生じるか否かを判断するにおいて、ワーナー・ジェンキンソン対ヒルトン・デイビス最高裁判決(Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem. Co., 520 U.S. 17, 33 (1997))で判示された「特許性に関連した実質的な理由("a substantial reason related to patentability")」とは、特許法102条、103条に基づく先行技術を回避するためになされた補正に限定されるものか、あるいはここでいう「特許性」とは特許査定に影響を与えるあらゆる理由に関係するものなのか?
−−−現状では、幾つかの事件において112条補正であっても「特許性に関連した実質的な理由」でなされたと判断されている。
例) リットン対ハネウェル、ローラル・フェアチャイルド社対ソニー事件2.ワーナージェンキンソン最高裁判決に従うと、「自発的な」クレーム補正−すなわち、審査官に要求されたり、あるいは拒絶理由に対する応答で審査官が述べる理由のためになされた補正でないもの−は、審査経過禁反言を生じるのか?
−−−現状では、禁反言を生じる対象は広く捉えられているようである(大げさに言えば特許権者の言動ほとんどすべてが対象となる)が、ニューマン判事は、禁反言を生じる範囲を審査官に要求された補正に限定されるとして、反対の立場
例) 本件のフェスト事件やリットン対ハネウェル事件の反対意見3.クレーム補正によって出願経過禁反言が生じるとき、ワーナージェンキンソン最高裁判決に従えば、補正されたクレームについて均等論に基づく均等の範囲は(もしあるとすれば)どれだけ認められるのか?
−−−リットン対ハネウェル事件、ヒューズエアクラフト事件等では、出願人が放棄した事項にのみ禁反言が働き、それ以外のものには均等論の適用を認めている。
但し、ガヤーサ判事、クレベンジャー判事等は、上記事件に関連して反対の立場を主張している。4.クレームを補正した理由の説明が立証できないために、ワーナージェンキンソン最高裁判決に従って審査経過禁反言の推定が適用される場合、補正されたクレームについて均等論に基づく均等の範囲は(もしあるとすれば)どれだけ認められるのか?
−−−セクスタント事件においてローリー判事は、一切認められないと判示(合議体はガヤーサ判事、スミス判事(一部反対))
5.侵害という本件の判決は、均等論を適用した結果「全体としてクレーム中のある構成要件を排除するように広く解釈することは許されない」とするワーナージェンキンソン最高裁判決に違反するか?すなわち、「オール・エレメント・ルール」に違反するか?
−−−上記は、最高裁が「発明全体として(invention as a whole)」判断した結果、特定の構成要件を無視することを禁じて、「すべての構成要件」を検討するよう命じたもの。
これに対し、構成要件(エレメント)をクレーム限定(リミテーション)として捉え、クレームの構成単位と侵害判断時においてイ号と対比する単位とが必ずしも一致しないとした「リミテーション・バイ・リミテーション(limitation by limitation、クレーム限定毎)」の適否を問う。この基準はコーニング・グラス対住友電工事件で有名になり、現状では有効とされている。本件では、コーニング事件以外にもインテル対ITC事件、サン・スタッド社対ATAエクイップメント・リース社事件を引用。
関連情報:
・Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., No. 95-1066 (Fed. Cir. 8/20/1999).
http://www.law.emory.edu/fedcircuit/aug99/95-1066o.wp.html
・Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., Ltd., 172 F.3d 1361, 50 USPQ2d 1385 (Fed. Cir. 1999)
http://www.law.emory.edu/fedcircuit/apr99/95-1066.wp.html
・Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., 72 F.3d 857, 37 USPQ2d 1161 (Fed. Cir. 1995), vacated on other grounds, 117 S. Ct. 1240 (1997).
1997年6月9日のCAFC差し戻し命令
http://www.law.emory.edu/fedcircuit/apr97/95-1066o.html
1995年12月14日のCAFC判決
http://www.law.emory.edu/fedcircuit/dec95/95-1066.html
・BNA's Patent and Trademark Journal, Volume 58, Number 1439 (Augustl 29, 1999).
・Brief(被告代理人オブロン事務所のサイトより被告側提出のブリーフ、PDF形式)
http://www.oblon.com/Ip/festo.pdf・Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chemical Co., 520 U.S. 17, 117 S. Ct. 1040, 41 USPQ2d 1865 (1997).
http://laws.findlaw.com/US/000/95-728.html
・Litton Systems, Inc. v. Honeywell, Inc., 140 F.3d 1449, 46 USPQ2d 1321 (Fed. Cir. 1998).
http://www.ipo.org/LITTONv.HoneyWELL.html
・Hughes Aircraft Co. v. United States, 46 USPQ2d 1285 (Fed. Cir. 1998).
http://www.ipo.org/HughesAircraft.html
・Loral Fairchild Corp. v. Sony Corp., No. 97-1017 (Fed. Cir. 1999)
http://www.ipo.org/LoralFairchildv_Sony6_8_99.htm
・Sextant Avionique, S.A. v. Analog Devices, Inc., 49 USPQ2d 1865 (Fed. Cir. 1999).
http://www.ipo.org/SextantvAnalog.html
・Corning Glass Works v. Sumitomo Electric U.S.A., Inc., 868 F.2d 1251, 9 USPQ2d 1962 (Fed. Cir. 1989).
・Intel Corp. v. United States Int'l Trade Comm'n, 946 F.2d 821, 20 USPQ2d 1161 (Fed. Cir. 1991).
・Sun Studs Inc. v. ATA Equip. Leasing Inc., 872 F.2d 978, 10 USPQ2d 1338 (Fed. Cir. 1989).
1999年7月22日ミーンズ・クレームの均等性判断には、各コンポーネント毎の対比は不要
1999年7月6日のオデティックス社対ストレージ・テクノロジー社事件(Odetics, Inc., v. Storage Technology Corp.)において、CAFCは再び112条第6段の均等と、均等論に基づく均等の対比につき興味ある判示を示しています。機能クレームの文言侵害では、クレームの限定を構成する部品毎に対比してはならないという、ちょっと聞くと変に聞こえる内容です。この件については、後日さらに詳細を報告する予定です。
端的に言えば、
・112条第6パラグラフに基づくミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの均等性判断には、各コンポーネント毎の対比(component-by-component analysis)は不要である。
・クレームされた機能に対応する構造「全体」がクレーム限定(limitation)であるから、これを基準にイ号と対比しなければならない。
・クレーム・リミテーションをさらに分解してコンポーネント基準に均等性を判断してはならない。
ということになります。
本件の合議体は、ローリー、クレベンジャー、シャール判事で、判決主文はクレベンジャー判事が担当されています。
本件で問題となった技術は、回転式挿入・取出機構を備えるテープの自動取扱システム(automated tape handling system)です。
事件の経緯の経緯を簡単に述べますと、オデティックス社はロボット式テープ取扱システムの特許を有しています。これは、ビデオテープやコンピュータのデータ保存テープの保存、整理、取り出しに利用されているものです。一般には、テープを収納する大きな円筒状のコンテナの中央に、旋回式の取り出し機構(ロボットアーム等)を備えています。外部からの命令に従って、ロボットアームが所望のテープを掴み、保存用棚から別の棚、あるいは再生機にテープを移動させます。このようなシステムは、大量のデータを簡単かつ迅速に取り出す必要のある部署で使用されるものです。本件では、イ号装置は金融取引情報の保存やアクセスに使用されています。被告製品を購入、使用したクレジットカードで有名なVISAやクレスター・バンク(Crestar Bank)等も、被告として挙げられています。
被告の製品は、図がないので詳細な構造はよく判りません。(インターネット上にカタログ等が出ないか探しましたが、該当する製品「ACS 4400, the PowderHorn, and the WolfCreek」は発見できませんでした。ご存じの方がいらっしゃいましたら、ご教示下さい。)判決文の説明によれば、収納するテープ数が多くなっても収納用ライブラリ・コンテナを追加できるよう構成されています。コンテナ間を「パス・スルー・ポート」で繋ぎ、ここをテープを保持した箱状の「箱列("bin array")」がスライドして移動します。箱列は、保持するテープをライブラリ・コンテナ内で取り出しできるように、旋回可能となっています。旋回には、箱列の底面に固定されたピン状の「カム・フォロワ(cam followers)」を使用します。このピンが、角度付の構造(angled structures、多分溝かガイドのようなもの?)であるカムに接触し、カムがピンに応力を生じて、箱列はロッド上を旋回します。このように、箱列はテープ保持部、箱、ロッド、ピンを備えています。
オデティックス社の技術は、1980年代に特許されました。同社は、1995年にストレージ・テクノロジー社を(ロケット・ドケットで有名な)バージニア州東部地区連邦地方裁判所に提訴しました。当初、陪審は非侵害との評決を下しましたが、これに対し原告はCAFCに控訴しました。CAFCは訴えを認め、事件は地裁に差し戻されました。今度の陪審は、1998年3月、オデティックス社に7060万ドルの損害賠償を認める評決を下しました。
しかし、全く別件のチューミナッタ事件(Chiuminatta Concrete Concepts Inc. v. Cardinal Indus Inc.)の判決が、このときCAFCにより下されました。この判決では、112条第6段の均等と均等論の均等との違いが示されました。
この判決に従い、地裁裁判官トーマス・エリス判事(Thomas Ellis)は、評決を覆し非侵害のJMOLを認める判決を下しました。事件は再び控訴され、そして今回の判決が下されたのです。
クレベンジャー判事は陪審の評決を維持し、特許権侵害を認めています。地裁の裁判官が、コンポーネント毎の判断が必要であるとしたことは誤りであり、侵害ありと判断した陪審の評決は正しかったとしています。
しかしローリー判事は、多数意見が機能と構造を混同しているとして、反対意件を書かれています。本件では、クレームの構成要件毎に侵害かどうかを判断をする際に、どこを基準とするか、いいかえると、どこまで細かく分解して対比すべきかが検討されています。ここで、侵害判断でよく用いられる用語の定義を今一度確認する必要があります。私の理解では、
クレームの「エレメント(element)」とは、クレームの構成要件を意味し、
リミテーション(limitation)とは、侵害判断の基準(通常は、エレメントと同一であることが多いですが、同一でない場合もあります。コーニング・グラス対住友電工事件が代表的な例でしょう。)を指し、
コンポーネント(conponent)とは、リミテーションを構成する部材をいうものと考えられます。(字義から考えると、コンポーネントの方がエレメントより大きそうなのですが、、、)
侵害の判断は、ご存じの通り「発明全体として」でなく、クレームを構成するリミテーション毎に対比して行わなければならないとされています。留意しなければならないことは、発明の各構成部分を大きく捉えすぎると一部のリミテーションが無視されて「発明全体」の判断に近くなりますが、かといって各部品に拘泥されてあまりに細かく分けてしてしまうと、対応がとれず非侵害に陥るおそれがあることです。
今回の事件では、リミテーション毎に侵害有無を判断する際、対比判断の細かさに上限があることをCAFCが示した、と捉えることができるのではないでしょうか。各リミテーションが対比判断の基準であり、それ以上に細かく分解して侵害判断するのは行き過ぎであるということでしょう。
もちろん、現実の事件では、リミテーションをどの部材に当てはめて考えるかが、極めて重要になります。関連情報:
・Odetics, Inc., v. Storage Technology Corp., 98-1533, -1585 (Fed. Cir. 1999).
http://www.ipo.org/OdeticsvStorage7.6.99.htm
・Brenda Sandburg, "$70 Million Patent Verdict Reinstated." The Recorder/Cal Law (July 14, 1999).
http://www.lawnewsnetwork.com/practice/iplaw/news/A3381-1999Jul13.html
・Chiuminatta Concrete Concepts, Inc. v. Cardinal Industries, Inc., 145 F.3d 1303, 46 USPQ2d 1752 (Fed. Cir. 1998).
http://www.ipo.org/Chiuminatta.html
(侵害の判断時が112条では特許付与時、均等論侵害では侵害時であるため、イ号が特許付与後に開発された技術であれば、均等論侵害の適用があるが、そうでない場合はミーンズ・クレームの侵害がない場合自動的に均等論侵害もないことになる。
また、ミーンズ・クレームでは機能の同一性を要求しているが、これに対し均等論では実質同一で足りる。
判決文を書いたのは、今回反対意見を書いているローリー判事。他の合議体(panel)は、ミッシェル判事、プレーガー判事。)
・Read Corp. v. Portec Inc., 23 USPQ2d 1426 (Fed. Cir. 1992).
・1999年7月15日付BNA's Patent, Trademark and Copyright Journal, Vol. 58, No.1433, 318
・服部健一「日米ホットライン」発明(発明協会発行)
A. 1998年9月号 オデティックス事件の地裁判決その1 差し止め
「特許権者は提訴までに懈怠(laches)があった場合、当該懈怠期間中に製造販売されたイ号の使用を差し止めることはできない」
通常、特許権者は侵害の事実を知ってから提訴するまで時間をおきすぎると、懈怠とみなされて損害賠償を請求できなくなる。(この期間は通常6年程度とされている。)
本件ではさらに、損害賠償のみならず、差し止め請求も認められないとされた。
B. 同1998年9月号 チューミナッタ事件
「ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの均等物とならないものは、均等論侵害もないことがある」
C. 1998年12月号 オデティックス事件の地裁判決その2 均等論侵害
「ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームで均等物とならないものは、均等論侵害にもならない」
1999年6月24日州を知的所有権法違反で訴えることはできない
カレッジ・セービングス・バンク事件の最高裁判決6月23日、特許権侵害、虚偽宣伝による商標法違反で「州」を連邦裁判所に訴えることができるかどうかが争われていた裁判の判決が、共に最高裁で下されました。結果は、「訴えることはできない」です。その理由は、州の免責を無効にした連邦法(特許法271条(h)、296条)は、憲法修正14条のデュー・プロセス条項(due process)の保障を根拠に立法化された法律として認められないので、憲法違反とされたためです。
州政府やその機関を訴えることが出来ないとは驚くべき結論ですが、最高裁は州権を擁護する方向に動いているようです。それはさておき、この問題は憲法が連邦議会に与えた権限や、州と連邦間の問題といったアメリカ特有の、法技術的な問題を含んでいますから、トピックとしては興味深いものがあります。ただ、特許関係者としては法理論に深入りしなくても結論さえ押さえておけばとりあえず十分かと思います。
とにかく結論としては、州政府やその機関を知的所有権法違反で訴えることが極めて困難(事実上不可能?)となった訳です。例えば、州立大学や病院などで特許権侵害が起こっているとしても、これらの機関を訴えることはできません。また商標権も問題となり得るでしょう。(今回争われたのは、商標権侵害ではなく、出所混同を生じさせる虚偽広告でしたが、商標権侵害が起こる状況も十分考えられます。)1998年〜1999年の最高裁審理日程最終日となった本日、州権の拡大を認める判決3件がまとめて出されました。予想されていたとおり、すべての事件が5対4の僅差できれいに割れています。決定票を握っているといわれたケネディ判事(Justice Anthony Kennedy)が州権擁護側に付いたため、この結果となった模様です。州権拡大を主張する保守派が、レンキスト裁判長をはじめとするオコナー、スカリア、ケネディ、トーマス判事です。これに対するリベラル派は、スティーブンス、ソーター、ギンスバーグ、ブレイヤー判事です。
州権擁護の保守派は、特許法及び商標法の一部(「保護明確化法(Patent Remedy Act)」と名付けられた、州を被告として侵害訴訟を提訴できる旨を確認的に定めた規定)が、憲法修正11条に定める州の免責特権(sovereign immunity、主権者の免責)を無効にしているため、違憲であると判断しています。具体的には、1992年の法改正で導入された上記規定は、連邦議会が憲法で認められた権限に基づいて制定されたものでないと判断されたため、州の免責を無効にしようとした連邦議会の行為は憲法違反である、とされました。
つまり、州政府を特許権侵害で連邦裁判所に引っ張ってくることは、本件では違法となったわけです。(本件では、というのは、訴えに係る行為が州の中心的機能としての行為であったか否かが争点となっており、「教育」の資金積立はこれに該当すると判断されています。)
では、州裁判所に訴えればどうか、という疑問が上がってきます。ご存じかもしれませんが、アメリカは「州」の権限が原則として認められており、「連邦」ができることは憲法に列挙された事項のみ、という構成になっております。その中で、特許事件は例外的に「連邦の専権事項」とされています。したがって、一般に特許権侵害訴訟は連邦裁判所にしか訴えることができません。しかし、例えば契約が絡む事件等、州裁判所の管轄に該当する事件も皆無というわけではないでしょうし、また商標事件については連邦の専権という制限はありません。
しかし、カレッジ・セービングスバンク事件と同時に下されたオールデン対メーン州事件(ALDEN et al. v. MAINE)によれば、残念ながら裁判所を連邦から州裁判所に変えただけでは、今回の判示を回避することは難しそうです。
この分でいくと、今回の判決を待って審理が再開されると思われるチャベス事件(Chavez v. Arte Publico Press)についても、同様の結果となりそうです。この事件では、著作権侵害で州を連邦裁判所に提訴出来るかどうかが争われていますが、恐らく提訴不可との判決が下されると予想されます。なお、今回特許法の一部が憲法修正14条に基づいていないため違憲無効とされたわけですが、将来、連邦議会が違憲無効とされない連邦法(特許法)を、正しく憲法修正14条5項に基づいて制定するための条件も最高裁は示しています。これによると、連邦議会が州による特許権侵害のパターンを特定し、さらにこれらの行為が憲法修正14条で保証された法の適正手続を経ることなく、特許権者の財産を奪うことになる侵害行為であるとして、斯かる行為に対する立法上の救済を憲法の趣旨に適合させる必要があるということです。特に今回争われた1992年改正特許法の制定趣旨は、特許法の統一を図り、州を民間団体と同一の位置付けとすることが目的でしたが、これでは不十分とされたわけです。
関連情報:
・FINDLAW US SUPREME COURT CASE SUMMARIES, (June 23, 1999).
http://www.findlaw.com/casecode/supreme.html
・"U.S. high court expands states' immunity from suits.", FindLaw (June 23, 1999).
http://legalnews.findlaw.com/news/19990623/bccourt.html&nofr=y
・"Supreme Court Boosts States' Rights", (AP通信発) NY Times (June 23, 1999).
http://www.nytimes.com/aponline/w/AP-Court-States-Rights.html
・Bill Scanlon, Gregory Aharonian, "Supreme Court says states can't be sued for IP infringement." Internet Patent News (June 23, 1999).
・Florida Prepaid Postsecondary Education Expense Board v. College Savings Bank, 98-531 (U.S. 1999). (College Savings Bank II)(特許権侵害が「第2」カレッジ・セービングスバンク事件)
判決文はレンキスト裁判長自らが担当し、オコナー、スカリア、ケネディ、トーマス判事が賛同。反対意見はスティーブンス判事が担当、ソーター、ギンスバーグ、ブレイヤー判事が賛同。
http://laws.findlaw.com/US/000/98-531.html
http://supct.law.cornell.edu/supct/html/98-531.ZS.html
・College Savings Bank v. Florida Prepaid Postsecondary Education Expense Board, 98-149 (U.S. 1999). (College Savings Bank I)(商標法に基づく虚偽宣伝が「第1」カレッジ・セービングスバンク事件)
判決文はスカリア判事が担当、レンキスト、オコナー、ケネディ、トーマス判事が賛同。反対意見はスティーブンス判事が担当。ブレイヤー判事も反対意見、これにスティーブンス(再度)、ソーター、ギンスバーグ判事が賛同。
http://laws.findlaw.com/US/000/98-149.html
http://supct.law.cornell.edu/supct/html/98-149.ZS.html
・College Savings Bank v. Florida Prepaid Postsecondary Education Expense Board, 148 F.3d 1355, 47 USPQ2d 1161 (Fed. Cir. 1998)
http://www.ipo.org/CollegeSavings97-1246.htm
・College Savings Bank v. Florida Prepaid Postsecondary Education Expense Board, 131 F.3d 353, 45 USPQ2d 1001 (3rd Cir. 1997)
http://laws.findlaw.com/3rd/971755p.html
http://www.ljx.com/trademark/1297trca.html
・Alden et al. v. Maine, No. 98-436 (U.S. 1999).(公正労働基準法の違憲性)
判決文はケネディ判事が担当、レンキスト、オコナー、スカリア、トーマス判事が賛同。反対意見はソーター判事が起草、スティーブンス、ギンスバーグ、ブレイヤー判事が賛同。
http://laws.findlaw.com/US/000/98-436.html
・Chavez v. Arte Publico Press, 139 F.3d 504 (5th Cir.), modified, 157 F.3d 282, 48 USPQ2d 1132 (5th Cir. 1998), rehearing en banc granted (Oct. 1, 1998).(著作権侵害と商標法違反、現在休廷中)
http://laws.findlaw.com/5th/9302881cv1.html
・Seminole Tribe of Florida v. Florida, 517 U.S. 44, 116 S.Ct. 1114 (1996)
http://laws.findlaw.com/US/000/u10198.html
・憲法修正条項の原文
http://gopher.nara.gov/exhall/charters/constitution/amendments.html
・Joan Biskupic, "Justices, 5-4, Strengthen State Rights.", Washington Post (June 24, 1999).
http://www.washingtonpost.com/wp-srv/WPcap/1999-06/24/028r-062499-idx.html
http://www.washingtonpost.com/wp-srv/WPlate/1999-06/24/139l-062499-idx.html
・Brenda Sandburg, "Justices Issue States Free Pass in Patent Lawsuits." The Recorder/Cal Law (June 23, 1999).
http://www.lawnewsnet.com/stories/A2704-1999Jun24.html
http://www.lawnewsnet.com/stories/A2702-1999Jun23.html
http://www.ipmag.com/dailies/1999/june/990624.html
・"Enforcement of Federal Rights in States Is Limited by Court: Alden v. Maine", Law News Network (June 23, 1999).
http://www.lawnewsnet.com/stories/A2675-1999Jun23.html
http://www.lawnewsnet.com/stories/A2674-1999Jun23.html
・IPO Daily News (July 6, 1999).
1999年6月11日訃報 リッチ判事逝去
CAFC判事の重鎮、ジャイルズ・S・リッチ判事がなくなられたそうです。知財法曹界のシンボル的存在であった故人の冥福をお祈りします。
ワシントンポストの訃報欄によれば、同判事はSibley Memorial Hospitalにてリンパ腫のため6月9日、亡くなられました。享年95才でした。同判事は1904年ニューヨーク州ロチェスター生まれで、1956年以来、アメリカ史上最長の現役高裁判事としての記録をもたれておりました。ウィリアム・レンキスト現連邦最高裁判所長官は、1997年にリッチ判事に宛てた手紙で「(プロ野球チーム、ボルチモア・オリオールズの選手で前人未踏の連続出場記録を打ち立てた国民的英雄)カル・リプケンのように、毎日記録を更新しておられる。国民は司法制度に対するあなたの素晴らしい献身を称え、私もそうします。」と宣言されております。
アイゼンハワー大統領から1956年CCPA(U.S. Court of Customs and Patent Appeals、CAFCの前身である関税特許控訴裁判所)の判事に任命されたこと、1952年特許法起案に特別委員会(ad hoc committee)の一員として携わったこと、CAFC設立時から判事の一員として活躍していたことや、多くの有名な事件(バイオやコンピュータがらみ、チャクラバーティ事件(In re Chakrabarty)や近時のステート・ストリート・バンク事件(State Street Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc.)を担当されたこと等、リッチ判事の生涯はアメリカ特許制度の歴史でもあると感じます。情報元および関連情報
・Mr. Ken Osawa
・ウォーレン・チーク米国特許弁護士(Warren M. Cheek Jr., Esq., Wenderoth, Lind & Ponack, L.L.P.)
・Bart Barnes, "Giles S. Rich Dies at 95", Washington Post; Page B06 (Friday, June 11, 1999).
http://search.washingtonpost.com/wp-srv/WPlate/1999-06/11/165l-061199-idx.html
・Brenda Sandburg, "Justice Giles Rich, Oldest Active Federal Judge, Dies", The Recorder/Cal Law (June 11, 1999).
http://www.lawnewsnetwork.com/practice/iplaw/news/A2225-1999Jun10.html
・In re Chakrabarty, 197 USPQ 72 (CCPA 1978).
・State Street Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc., 149 F.3d 1368, 47 USPQ2d 1596 (Fed. Cir. 1998).
http://www.ipo.org/97-1327.htm
6月24日 若干修正ザーコウ事件、最高裁で逆転 ディッキンソン特許庁長官代理対ザーコウ事件の最高裁判決が昨日下されました。
驚くべきことに、CAFC判決が逆転されています。
今後、特許庁の事実認定がCAFCで再審理されるときは、従来の「明らかな誤り(clearly erroneous)」基準でなく、「実質的証拠(substantial evidence)」基準で判断されます。つまり、わずかでも特許庁の判断を裏付ける証拠がある限り、これを覆すことができなくなります。理屈からいうと、今まで以上に審決取消訴訟で特許庁の判断を覆すことが困難になると予想されます。
今まで通りの基準でCAFCに特許庁の事実認定を完全に見直して(覆して)もらおうとすれば、特許庁の審決後に一旦ワシントンDC連邦地裁に提訴する必要があります。(実際のところ、これまでも拒絶審決を覆すのは困難でしたから、どれだけ意味があるかは不明ですが)
最高裁の判断は6対3でした。多数意見はブレーヤー判事、反対意見はレンキスト裁判長が書かれています。
行政機関の下す判断の再審理は、行政手続法(Administrative Procedure Act (APA))706条(2)(E)により、原則として「恣意的、気まぐれ、裁量権の濫用、または実質的証拠の裏付けなし(arbitrary, capricious, an abuse of discretion, or unsupported by substantial evidence)」の場合に行政機関の決定を破棄(set aside)できます。またAPAは例外として、「制定法により課せられもしくは法で認められた要件の追加をAPAは制限または無効にするものでない」旨を559条に定めています。CAFCはこの例外に基づき、下級審裁判所の判断を再審理する基準と同じ「明らかな誤り」基準を、APAの施行される1946年以前からCAFCの前身であるCCPAが適用していたとし、既に確立された法として解釈しました。
これに対し最高裁は、CCPAの判決を調べ、CCPAが「明らかな誤り」基準を確立していなかったとしています。CAFCが特許庁の事実認定を再審理する際に、行政機関の事実認定を裁判所が審理する基準("court/agency" review)を採用するか、あるいは事実審裁判所の事実認定を控訴審裁判所が再審理する基準("court/court" review、連邦民事訴訟手続規則(Fed.R.Civ.P.)52(a)に規定)を採用すべきかの問題について、最高裁は先例の言葉遣いを調べた後、従前のCCPAが裁判所の基準を採用していたと示す証拠が薄弱であり、逆に行政機関の再審理基準を採用している、もしくは採用すべきとする節があることを理由に、行政機関の基準を採用すべしとしています。CAFCはCCPAの89件の先例を引用し、「"clear error"基準」が確立された基準であったと結論していましたが、最高裁はこれらの事件を精査した結果、"clear case of error," "clearly wrong," "manifest error"などとなっており、このような文言から"clear error"基準が十分確立されていたとは結論できないとしています。
また、既に既成事実として認識されている(裁判所の再審理と同じ「明らかな誤り」)基準を破棄した場合に生じるであろう混乱をザーコウ側は憂慮していましたが、説得力なしとして退けられています。
従来最高裁は、特許事件については専門家たるCAFCの判断を尊重する傾向がありましたが、今回CAFCが大法廷で、しかも全員一致で賛同した判決を最高裁が覆すとは驚きです。(基準が変わったといっても、実際上ほとんど変化はないだろうというコメントもありますが...)レンキスト裁判長は反対意見で、CAFCの全員と特許法曹界が、現在の基準はAPAのいう追加基準にあたるとする意見に同意されています。APAの定める基準はあくまで最低基準であるから、(上級審で厳しくチェックされるという点で)これよりも厳しい基準を特許庁に課すことに同意されております。逆に、このような分別ある解決があるのに、多数意見がこれを拒絶するという理由が見いだせない、とレンキスト裁判長は述べられております。
各記事は、様々なコメントを紹介しており、「周囲は反発したが、私はやはり正しかった」とするレーマン前特許庁長官やディッキンソン現長官の喜びのコメント、驚きを隠せないモッシンホフ前々長官(現在某大手ローファーム勤務)等、各者各様です。
また松本直樹弁護士も早速ホームページでコメントされておられます。
その後、アメリカ人弁護士何人かに感想を聞いたところ、実務上はほとんど変わらないだろう、ただ裁判所の書く判決の理由付けが「明白な誤り」から「実質的証拠のサポートなし」に変わるだけだ、という意見が多かったです。最高裁判事も、実際のところこの二つの基準がどう違うというのだ、と考えているようでした。ある実務家は、こんな議論を最高裁まで行ってやること自体が無駄だとまで言っています。ただ、特許庁サイドとしては嬉しいだろうと。CAFC(それも全員法廷判決(en banc decision))に一撃を加えたという点で。(たとえその結果がほとんど意味のないものであっても!)
情報元および関連情報
・Dickinson v. Zurko, No. 98-0377 (U.S. Argued March 24, 1999; Decided June 10, 1999).
http://laws.findlaw.com/US/000/98-377.html
http://supct.law.cornell.edu/supct/html/98-377.ZS.html
・FINDLAW US SUPREME COURT CASE SUMMARIES
・アレックス・シャルトーヴ米国特許弁護士(Alex Chartove(Morrison & Foerster LLP))
・Gregory Aharonian, "Internet Patent News" (June 10, 1999).
・"APA Review Standards Apply to PTO Factfindings" BNA's PTCJ (June 10, 1999).
・Brenda Sandburg, "High Court Defers to PTO on Patent Decisions", The Recorder/Cal Law (June 11, 1999).
http://www.lawnewsnetwork.com/practice/iplaw/news/A2228-1999Jun10.html
・In re Zurko, 111 F.3d 887, 42 USPQ2d 1476 (Fed. Cir. 1997) (in banc).
http://www.ll.georgetown.edu/Fed-Ct/Circuit/fed/opinions/96-1258.html
1999年5月13日 6月9日追加修正補正の理由は審査段階で常に明言すべき?
ワーナージェンキンソン対ヒルトンデイビス事件で米連邦最高裁は、均等論を抑止する審査経過禁反言について、ある「推定」を導入しました。つまり、審査段階でクレーム補正がなされていて、当該補正をした理由が特許性に関するものかどうかが不明な場合は、特許性に関する理由で補正したと「推定」されます。当該推定は、特許性以外の理由で補正されていたことを特許権者が証明できれば覆すことが可能です。しかし、反証できない場合は当該推定によって審査経過禁反言が働き、均等論の主張が禁じられることになります。この意味で、特許権者には新たな責任が課されたといえます。予め審査段階において補正した理由を明示しておくか、あるいは後の裁判で補正の理由を証明するか、という立証責任です。
この最高裁判決後、審査段階でクレームを特許性と無関係な理由で補正する場合は、例えば意見書中で当該補正の理由が「クレーム明確化のためであり、特許性とは無関係である」旨を明言しておく実務が提唱されました。(ある事務所などは、これ用の定型文を配布していたくらいです。)
では、特許性に関する補正理由がある場合、要するに引例に基づき102条、103条で拒絶されている場合はどうでしょうか?この場合、一案として補正の理由をあえて明示しない、つまり、もしかすると特許性に関係ない理由で補正していると判断されるかもしれない→均等論適用の余地を残しておく、という考え方がありました。特許性が理由であれば均等論の適用はどのみち制限されるわけだから、特許性が理由でない可能性にかけてみる。補正の理由は引例回避に必要なものか、そうでないかの線引きが困難な場合もある(特に、日本と違ってアメリカでは細切れのクレーム補正よりも、クレーム全体を書き直すことが多い)から、裁判所の判断に委ねてみようという考え方です。
しかし、これが大間違いである(らしい)という判決が本年2月末にCAFCにより下されています。補正の理由が不明でワーナージェンキンソン推定が適用される場合、均等論は完全に阻害され、均等の範囲は一切なくなるとのことです。そうであるとすれば、補正の理由はいかなるものであれ(特許性に基づくものであっても)明記しておく方が良さそうです。
セクスタント・エヴィオニック社対アナログ・デバイセス社事件(Sextant Avionique, S.A. v. Analog Devices, Inc.)で、CAFCはカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所の下した非侵害のサマリージャッジメントを支持し、特許2件とも非侵害と認定しました。このうちの1件については、補正の理由が引例回避のためであることが明らかで疑問の余地はないため、ワーナージェンキンソン推定は適用されずに、当該補正部分につき均等論の適用なしとされました(バイ事件参照)。
そしてもう一方の特許については、審査段階で112条と103条により拒絶されており、補正の理由が特許性によるものか否かが不明瞭でした。当然特許権者側は特許性によるものでないと主張しましたが、CAFCは受け入れませんでいた。つまり、特許権者は補正が特許性に関するものでないことを証明できなかった訳です。そして、CAFCはワーナージェンキンソン推定を適用し、これにより禁反言の及ぶ範囲、すなわち均等論の制限される範囲を初めて判断することとなりました。
CAFCは、先例がないので最高裁判決にあたり、特にクレームの不明確さによって一般公衆が被る被害を考慮して、クレームを明確に示す責任は特許権者にあるとしました。また、拠り所となる証拠(審査記録、補正書、意見書)がないため、クレームの文言範囲を超えてどこまで禁反言が及ぶかを定めることができないとし、競業他社も同様の困難に遭遇するであろうと推測しました。これらから、当該推定により禁反言が適用される場合は、均等論の働く余地はないと判断することが妥当かつ論理的であるとしたのです。つまり、「推定」が働くとき、均等論はすべてにおいて完全に阻害されることになります。
この豪快な判決を担当したのは、ローリー、ガヤージャ、スミス判事で、判決文はローリー判事が担当されています。ガヤージャ判事がこれに同意したことは容易に想像が付きます。しかしスミス判事は反対していますし(スミス判事はシニア・ジャッジですから、年間に担当する事件数はそれほど多くありません。1997年は特許事件100件の内9件を担当されています。)、他のCAFC判事がこの判決に同意するかどうかは、ちょっと疑問です。
(1999年6月8日追加)補正は絶対必要な場合のみ行い、必ず理由を付ける
セクスタント事件でCAFCは初めて、ヒルトンデイビス事件で最高裁が導入した「推定」を適用し、その範囲を検討しています。CAFCは、ワージェンキンソン最高裁判決を検討した結果、以下のように判断しています。
A クレームが特許性に関する理由で補正された場合=審査経過禁反言を適用
B 特許性と無関係な理由でクレームを補正=審査経過禁反言は適用せず
C 補正の理由が審査記録から不明、特許権者の反証失敗=特許性に関する理由で補正したと推定
→審査経過禁反言が適用され、禁反言は完全に禁止今回のポイントは上記Cで、理由の不明な補正があるとこれについては均等論が完全に禁止されることになります。(もっとも、今回の判決はローリー判事によるものであって、本当にCAFCの総意なのか?という疑問は常にありますが...)
詳細はアレックス・シャルトーヴ米国弁護士の論文(まだHPにアップされていないようです。)をご覧頂くとして、本件から学ぶべき教訓を検討してみたいと思います。
結果論ですが、本件でまずかったと思われる戦略の一つは、関連出願のクレームが通って特許になったからといって、通ったクレームと同じような補正をしたことではないでしょうか。本来必要のない限定まで追加される危険があり、また限定を追加した理由の説明が困難になります。(まさか「他の出願ではこのクレームで通ったから同じように補正した」という理由を付けるわけにはいかないでしょうし...)
あくまで、(特にクレーム補正が関わる部分については)事件毎に個別に検討して対処するのが基本であり、そうしないで半ば機械的に補正するような事態は避けるべきでしょう。そして常に補正の理由を説明できるようにしておき、かつ実際に説明することです。逆に言えば、理由の説明できない(あるいは理由のない)補正はしない、ということになると思います。
基本的に、クレームを補正すればその理由をすべて記載しておく必要があると考えられます。単純な字句の変更ならば説明も比較的容易ですが、クレーム自体の書き直しとなると面倒です。特に日本と異なり、クレームの一部を補正するやり方よりもクレーム自体を削除して新たに追加することの方が多いアメリカでは、この作業は大変です。出願の費用(特に代理人手数料)が嵩むことになりそうですが、最近のCAFCのポリシーとしては、均等の範囲があいまいになって公衆の不利益が増するよりも権利者の負担大の方がましということのようですから(例えばセージ・プロダクツ対デボン・インダストリーズ事件でのレーダー判事による意見)、いたしかたないのかもしれません。
補正をできるだけ少なくするとなると、以前にも増して出願前のクレームチェックが重要になってくると思います。従来ですと、クレーム補正は出願後でも比較的自由にできたように思います。例えば、クレームの文言明確化のために補正を加えることは実務上よくありました。好みの問題もありますし、言葉遣いや言い回しなどを気楽に変更していたように思います。しかし、今回のような傾向を考えた場合、これらはリスクを伴うと考えた方が良いでしょう。
出願前にアメリカ代理人が内容を確認してクレームを直すのであれば大丈夫でしょうが、日本からの英語翻訳済明細書をそのまま出願し、実際に内容を読むのは拒絶理由が来たとき、となるとまずいことが起こり得ます。
もし112条の拒絶理由が来ておれば、まだ比較的簡単です。112条違反で拒絶されておれば、補正の理由は「112条違反克服のためクレームを明確にした」と言えるからです。(それでも、「112条違反でも特許性に関する理由とされる」場合があるかどうかが議論されていますから、安心はできませんが)
問題は112条拒絶がない場合です。特に102条や103条拒絶しか言われていない場合、「クレーム明確化のため」という理由付けが果たしてどこまで認められるかは不明です。
以上から結論として、原則は「補正すべき理由があればそれを書き、補正する理由がなければ補正しない」といえるのではないでしょうか。参考資料
・Sextant Avionique, S.A. v. Analog Devices, Inc., 98-1063,- 1077 (Fed. Cir. 1999).
http://www.law.emory.edu/fedcircuit/feb99/98-1063.wp.html
・Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chemical Co., 520 U.S. 17, 117 S. Ct. 1040, 41 USPQ2d 1865 (1997).
http://laws.findlaw.com/US/000/95-728.html
・Bai v. L & L Wings, Inc., 160 F.3d 1350, 48 USPQ2d 1674 (Fed. Cir. 1998).
http://www.ipo.org/Baiv_Wings.html
・Sage Products. Inc. v. Devon Industries, Inc., 126 F.3d 1420, 44 USPQ2d 1103 (Fed. Cir. 1997)
http://www.ipo.org/sage.htm
1999年4月1日 1999年4月26日修正米国特許公報を無料で入手
米特許庁のホームページで、1976年以降の特許公報全文の利用が可能になりました。つまり、図面も含めて入手できるということです。最終テスト段階も終了し、4月21日から正式運用されています。
これまでもIBM等が無料で公報イメージを提供していましたが、解像度が悪く印刷すると汚い、一枚に収まるように印刷するのが困難、またアクセスの記録が残る等の問題がありました。
その点、特許庁のホームページから利用できるデータは、公共性があるためより安心して使用できます。それに、印刷してもかなり図面が綺麗で(300dpi)、実用上十分です。おまけに、明細書はクレームのみならず、発明の詳細な説明もテキストデータで入っているので助かります。
アメリカの特許公報の入手は、これで決まりでしょう。
なお、利用に当たっては、TIFFファイルが読めるプラグインが必要です。特許庁のページから、無料で使用できるプラグインソフトのリンクが設定されています。このソフトは英語ですが、日本語のネットスケープ・ナビゲータにインストールしたところ、問題なく使えました。印刷、保存等がツールバーのボタンで操作できて便利です。(残念ながら、公報を一括してダウンロード、印刷することはできません。もっとも、IBMもそうでしたが。)
なお、日本の特許庁サイトにおいても先頃刷新が行われ、「特許電子図書館」が開設され検索機能が拡充されています。情報元
・"Full-Page Patent Images Added to Full-Text Database (Final Beta Test)," United States Patent and Trademark Office
http://www.uspto.gov/patft/index.html
・Patent Full-Text Database Contents 収録データの情報
http://www.uspto.gov/patft/helpdb.htm
・AlternaTIFF (TIFF image browser plug-in)
http://www.mieweb.com/alternatiff/
・TERESA RIORDAN, "PATENTS: Viagra's Success Opens New Sexual Dysfunction Market: Women - Pictures Available on Patent Web Site.", New York Times (April 26, 1999).
http://www.nytimes.com/yr/mo/day/news/financial/patents.html
1999年3月12日 1999年4月14日修正特許紛争のADR活用について
ADR(Alternative Dispute Resolution、代替的紛争解決手段)団体、National Patent Boardの立ち上げの記事に、ADRに関する面白い洞察があります。
この団体NPBは特許専門のADR機関、つまり和解協議の仲裁役で、訴訟に比べ費用が安く迅速な処理という一般のADRのメリットに加えて、事件を担当する3人の判事は特許や技術に関する知識があるという点をアピールしています。
その反面、当事者に対する拘束力がないため、結局負けた側は訴訟に出るというおそれが指摘されています。(他のADR機関であるInstitute for Dispute Resolution(旧Center for Public Resources(CPR))やAmerican Arbitration Association (AAA)、World Intellectual Property Organization (ご存じWIPO、世界知的所有権機関)等の決定は、当事者に対する拘束力がある。余談ですが、日本でも日本弁護士会連合会と弁理士会の協力で「工業所有権紛争処理センター」を発足させようという動きがありました。その後どうなったのでしょう?)
NPBによれば、仲裁の決定に不服な当事者が裁判に訴える可能性を否定しないものの、両当事者が仲裁の結果を裁判所に提出できること(この場合、裁判所は仲裁の結果を重視すると予想されます)、および裁判になった場合敗訴した側は相手方の弁護士費用を負担すると双方が同意することにより、裁判に訴えることを抑制する効果があると述べています。
さらに、NPBによる仲裁では特許権の有効性を判断できないという欠点もあります。NPBは特許の有効無効に言及せず、単に侵害の有無のみを決定します。
年間およそ6万件の民事紛争がADRに行くものの、そのうち特許事件でADRによって解決したものはわずか15〜25件というデータもあります。どうも特許事件は一般の民事事件と異なる特殊性があるようです。通常の企業同士の争いでは、陪審に一方に対する偏見(bias)はないと考えられますが、特許事件では特許権者側に好意的になる傾向があります。このため企業は、通常の紛争の場合だと安価、迅速且つ機密性が保たれるというADRのメリットを活用しようとしますが、特許の場合は即訴訟ということになるようです。出典
・「特許紛争ADR係属中」
Sandburg, Brenda. "Patent ADR Pending - IP dispute resolution firm wants to put a dent in litigation fees", The Recorder (March 12, 1999)
1999年3月12日付 IP Magazineにも同内容が掲載
http://www.lawnewsnetwork.com/stories/mar/e031299g.html
http://www.ipmag.com/dailies/1999/mar/990312.html
・Shannon P. Duffy, "Patently Obvious", The Legal Intelligencer (April 14, 1999)
http://www.lawnewsnet.com/stories/A663-1999Apr13.html
1999年3月2日 1999年4月5日修正ヒューズ事件決着 長年に渡って争われ、多くの判示を残したあまりにも有名な事件であるヒューズ・エアクラフト社と米政府との争いも、ついに決着?
1999年3月1日付の最高裁命令一覧(Order List)を見ると、米国政府側が提出していた上告(petitions for writs of certiorari)がコメントなしで却下されています。これによって損害賠償責任が確定し、政府側はNASAがヒューズ社の人工衛星技術を侵害したかどで、1億5400万ドルの賠償金を支払わねばならないことになりました。
(事件が長引いたため、利息が大変?でも、政府は侵害しても基本的に実施料相当しか払わなくて良く、3倍賠償や弁護士費用は請求できない!)
ご存じの通り、この事件では均等論侵害が争われています。ヒューズ社は1973年に特許権侵害を連邦請求裁判所に訴えました。その控訴審においてCAFCは、「発明全体として」侵害であると認定しました。しかし、その後ヒルトンデイビス事件で最高裁が「構成要件毎」を基準に判断すべしと判示したため、事件は再度CAFCに差し戻されたものの、CAFCは「構成要件毎」に審理し直しても、依然として侵害であると判断しました。これに対し米国側は再度最高裁に上告を試みましたが、今回は受理されなかったという訳です。
1999年4月2日付ロイター発によりますと、連邦請求裁判所(連邦政府が被告の事件で第一審となり、地裁に当たります。)のジェームズ・ターナー判事(James Turner)の支払い命令を受け、財務省(U.S. Department of Treasury)から3月30日に支払いを受けたとヒューズ・エレクトロニクス社(Hughes Electronics Corp.)は報じています。関連情報
・1999年3月2日付 テスコダイレクト
・UNITED STATES V. HUGHES AIRCRAFT CO., CERTIORARI DENIED, 98-871 (U.S. 1999)
・"U.S. High Court lets stand GM Hughes patent ruling," WASHINGTON (March 1, 1999) (ロイター)
・"Hughes Electronics wins patent infringement case", WASHINGTON (April 2, 1999) (ロイター)
1999年2月19日米特許庁と家主の争い あまり大した話ではありませんが、以前お伝えした米国特許商標庁がそのオフィスビルの家主であるスミス社に訴えられていた裁判について、今週月曜日にバージニア東部地区連邦地方裁判所で判決がありました。(さすが「ロケット・ドケット」仕事が速い!)判決文の詳細はまだ見ていませんが、裁判所は特許庁側の訴えをほとんど認めているそうです。この辺は以前のワシントンポストの記事からも推測できます。(ここにくるまで両者の間で小競り合いが何度かあったが、ほとんど特許庁側の言い分が通っていた。)
ただ、スミス社の訴えていた「(庁舎ビルを提供する)入札者は、全員が庁側の提示する条件の計画書("program of requirements")にアクセスでき、かつ入札提示案を修正する時間を与えられるべきである」との主張は認められたようです。情報元および関連資料
・1999年2月18日付 IPO DAILY NEWS
・Charles E. Smith Cos. v. U.S. Government, General Services Administration (E.D.VA 1999)
・1999年1月11日付 ワシントン・ポスト 「Smith Cos. Trying to Build a Case Against GSA Process」
by Maryann Haggerty
1999年1月25日
広いクレームを明細書中で適法にサポートするには?
一部継続出願で親出願の出願日に遡及するには、親出願が「記載要件」を具備する必要クレームの範囲が広いのに発明の詳細な説明には実施例が一つしか記載されていない場合、従来だとクレームが実施例相当に狭く解釈されることが多かったように思います。しかし昨年のジェントリー・ギャラリー対バークライン事件(The Gentry Gallery, Inc. v. The Berkline Corporation, 134 F.3d 1473, 45 USPQ2d 1498 (Fed. Cir. 1998))でCAFCは、クレームを限定解釈するよりもクレームを無効と認定しました。ですから今後は記載要件に特に留意する必要があると思われます。
昨年8月のトロンゾ対バイオメット事件(Tronzo v. Biomet, Inc., Nos. 97-1117,-1177,-1213 (Fed. Cir. 1998)、1998年8月28日判決、担当はアーチャー、ニューマン、リッチ判事による合議体で、判決理由はアーチャー判事が起草)でCAFCは、広い独立クレームを無効とし、さらに当該独立クレームに従属している狭いクレームについては、均等論侵害なしと判示しています。(アレックス・シャルトーヴ弁護士による詳細論文はこちら。)
この事件では人工移植用のヒップソケット(artificial hip socket)に関する発明が争われました。問題となった特許権は一部継続出願(continuation-in-part (CIP))から特許になったものであり、独立クレームには形状に関する限定がなく、その従属クレームで形状が「全体的に円錐形("a enerally conical outer surface")」であることを要件としていました。
CAFCの判断では、親出願に記載されていた発明は「円錐形」のみであり、他の形状に関する言及も示唆もないので、独立クレームに係る技術は親出願でサポートされていないとして、親出願への遡及効を認めず無効としました。
また従属クレームについても、結局どのような形状であっても同じ効果を生じることから、形状に関する限定は本件発明の果たそうとする目的とは無関係であり、この限定はあってもなくても同じと判断しました。ここで、均等論に基づく侵害が認められるためには、イ号物件がクレームに係るすべての構成要件を具備していなければなりません。そして、構成要件の一部でも無視するような解釈は均等論下では許されないのです。このため当該従属クレームには均等論侵害を適用できないとして、均等論侵害なしと認定されました。
記載不備による無効と、遡及効なしによる新規性/進歩性欠如という違いはありますが、いずれも明細書の記載不備に起因して特許無効が認定されています。つまり、クレームに係る発明を明細書が適切に開示できているか、という点です。
ここで注意しなければならないことは、広いクレームを支持する実施例をできるだけ挙げておくことはもちろんですが、発明が明細書中に記載されていることをできるだけ明確にしておくことです。具体的に言うと、「従来技術」の説明欄でなく、「発明の簡単な説明("Summary of the Invention")」や「好ましい実施態様の詳細な説明("Detailed Description of the Preferred Embodiments")」の欄に記載すること、従前の出願の特許番号等を引用して記載に代える「援用(incorporation by reference)」に頼らないこと、等です。要するに、明細書を読んだ当業者が完全に「その実施例がここに記載されている」といえる明細書を作成することが目標になるかと思います。
また本件では、特許権者の主張が審査段階と侵害訴訟で一致していない点にもご注目下さい。出願人は審査段階では「円錐形にしたから従来のものより優れている」と明細書で述べているのに、訴訟では「本発明は円錐形以外の形状も含む」と主張しており、明らかに矛盾しています。
もうひとつ、本件で興味深いのは(個別意見を得意とする?)ニューマン判事による同意意見です。
先にアメリカに出願して、次に同じ内容で外国にも出願し、その後アメリカに一部継続出願をした場合を考えて下さい。一部継続出願の出願日が外国での公開よりも一年以上経過していると、102条(b)により自身の公開公報で拒絶される、と本件は判示しています。しかし、親出願たる米国出願が先になされているのに、後で出願された外国出願の公開公報によって新規性なしとされるのはおかしい、(そんなルールは今までなかった)とニューマン判事は述べられています。たしかに、このルールによれば継続出願はかなり制限されてしまうことになります。今後の議論に注目したいところです。情報元
・アレックス・シャルトーヴ米国特許弁護士(Alex Chartove(Morrison & Foerster LLP))
・TRONZO, v. BIOMET, INC., Nos.97-1117,-1177,-1213 (CAFC 1998)
1999年1月13日最高裁、ステート・ストリート事件上告を却下/
主権者の免責については、審理を許可1. ビジネス方法の特許化可否は、最高裁で審理されず
今週月曜日、合衆国最高裁判所はステート・ストリート・バンク事件(State Street Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc., Nos. 96-1327 (Fed. Cir. 1998))の上告申請をコメントなしで却下しました。この結果、CAFCの判決は確定することとなり、ビジネス方法の特許可に向けて門戸が開放された、あるいは少なくとも金融商品についての特許出願が増加する事態が予想されます。
情報元
・1999年1月12日付 ニューヨーク・タイムズ 「Court Declines to Review Ruling Seen as Software Boon」
By BLOOMBERG NEWS
2. 州政府は、権利侵害の咎めを受けない? 1999年4月20日修正一方で最高裁は先週金曜日、同じ当事者による特許、商標事件の2件について、上告を受理しています。ここで争われているのは憲法の違憲性のようなので、私にはよくわからない世界ですが、どうも主権者の免責(sovereign immunity)が問題になっているようです。この事件で訴えられたフロリダ州政府の機関は、主権者の免責の理論に基づき、州政府は同意なく特許権(または商標権)侵害で訴えられない、という抗弁をしたようです。しかし、地裁、CAFC共にこの主張を却下しました。
ところが、商標権侵害について審理していた第3サーキットでは、被告つまり州政府側の主張を認め、免責されるとの判断を下したのです。同じ当事者につき正反対の結果となったため、整合性をとる必要があると最高裁は判断し上告を受理したということのようです。
なお、これとは別件で、現在第5サーキットでも、著作権及び商標権の侵害責任について州は免責されるという事件がエンバンクで審理されています。(チャベス事件(Chavez v. Arte Publico Press, 139 F.3d 504 (5th Cir.), modified, 157 F.3d 282 (5th Cir. 1998), rehearing en banc granted (Oct. 1, 1998))
事件の背景について、簡単にまとめてみましたのでご参考までに。ところで、特許法等の知的所有権に限らず、連邦法で州の免責特権を無効にできるかどうかの議論は、あちこちの法域で争われている模様です。
例えば、4月1日付のrecorderによる「最高裁判事、州権を再び保護?」と題した記事によれば、公正労働基準法の違憲性が現在最高裁で争われているようです。(アルデン対メーン州事件(Alden v. Maine, 98-436 (U.S. 1999).)、口頭弁論は3/31)
ここでも基本的には同じ問題が扱われています。要するに、州の職員に対する残業手当の支払いを州政府に義務付け、未払い分の補償請求は州裁判所又は連邦裁判所に提訴しても良いと認めた連邦法が、違憲かどうかです。
3年前、例のセミノール事件(Seminole Tribe of Florida v. Florida, 116 U.S. 1114 (1996))により、州を相手取って連邦裁判所に提訴することを個人に認める権限を、連邦議会は憲法1条下では持っていない、とされました。これを受けて連邦裁判所は事件を却下しました。ここまではまあいいとして、今回問題になっているのはこの次です。あたらめて原告は今度は州裁判所に提訴しましたが、なんとメーン州最高裁も事件を却下したのです。曰く、「単に州裁判所に提訴し直したからといって、セミノール事件で判示された連邦議会権限の限界を回避することはできない」と。このあたりの詳しい議論は割愛しますが、興味深いのはレンキスト裁判長の「逆襲」のくだりです。
レンキスト法廷は、過去7年の間に4件、連邦法を駆逐するために州の権利を適用しています。近年では1997年に問題となったブレイディ法(1994年施行。州及び地方自治体の法執行機関が拳銃の購入希望者に対し、過去の犯罪歴等を調査するよう規定した銃規制法)の一部を無効にしています。ブレイディ法、およびセミノール事件では、5対4の僅差でした。多数派は、レンキスト裁判長を始め、オコナー、スカリア、ケネディ、トーマス判事で、彼らは州権の擁護者と言えるでしょう。(レンキスト・コートは保守派のようです)
ところで1976年、レンキスト判事は同じく5対4の多数決で、連邦の賃金及び就労時間の規定法に州を従わせることはできないと判示しました。(National League of Cities v. Ursery, 426 U.S. 833 (1976).)
しかし9年後、最高裁は5対4で自らこの判断を覆し、連邦法が州及び地方自治体の職員をカバーすると判示したのです。(Garcia v. San Antonio Metropolitan Transit Authority, 469 U.S. 528 (1985).)
レンキスト判事は今回(たとえ僅差でも)再び州権を復活させようとしているようにも考えられます。そうなると、特許権侵害で州の免責特権を認めないとしたCAFCの判断が、危ういかも知れません。
一方、商標法違反の訴訟で「州は被告たり得ない」とした第三巡回控訴裁判所は、件のカレッジ・セービングスバンク事件以降も州の免責問題を扱ったケースを二件、1998年に出しているそうです。破産法(Bankruptcy Code, 11 U.S.C. § 106(a))を扱った事件(In re Sacred Heart Hospital of Norristown v. Commonwealth of Penn. Dep’t of Pub. Welfare, 133 F3d 237 (3d Cir, Feb 19 1998).)と、鉄道再生定期点検法(Railroad Revitalization and Regulatory Reform (4-R) Act of 1976, 49 U.S.C. § 11501.1)を扱った事件(Wheeling & Lake Erie Railway Comp. v. Pub. Utility Comission of the Commonwealth of Penn. (3d Cir, March 31, 1998).)です。この情報は、Ken氏より頂きました。同氏のIPサークル、及び一般法を扱ったKenのアメリカ法は、必見です。情報元および参考資料
・1999年1月11日付 IPO DAILY NEWS
・Florida Prepaid Postsecondary Education Expense Board v. College Savings Bank, 98-531 (U.S. 1999)
・College Savings Bank v. Florida Prepaid Postsecondary Education Expense Board, 98-149 (U.S. 1999)
・College Savings Bank v. Florida, 97-1246 (Fed. Cir. 1998)
・College Savings Bank v. Florida Prepaid Postsecondary Education Expense Board, Nos. 97-5055 and 97-5086
(3rd Cir. 1997)
・Chavez v. Arte Publico Press, 157 F.3d 282 (5th Cir. 1998)
・Seminole Tribe of Fla. v. Florida, 517 U.S. 44 (1996)
・Pennsylvania v. Union Gas Co., 491 U.S. 1 (1989)
・Parden v. Terminal Ry. of Ala. State Docks Dep't, 377 U.S. 184 (1964)
・Taro Isshiki, Esq.(一色太郎米国弁護士)
・Kenneth Jost, "Justices Seem Ready to Back States' Rights -Maine case showcases sovereign immunity fight", The Recorder/Cal Law (April 1, 1999)
・飛田茂雄「アメリカ合衆国憲法を英文で読む:国民の権利は同どう守られてきたか」中公新書(1998)
・Kenのアメリカ法
1999年1月8日1999年の米特許庁
1. レーマン長官辞任、長官代理のディッキンソン氏が後任 1999年3月15日修正
既報通り、1998年末をもって米特許商標庁長官ブルース・レーマン(Bruce A. Lehman)氏は辞任し、後任にトッド・ディッキンソン(Q. Todd Dickinson)元長官代理が本年1月1日から長官職に就任しています。レーマン長官の在任期間は1993年〜1998年と、日本の特許庁長官に比較してかなり長かったですが、1998年は結局特許庁のトップ4人の内3人が辞めてしまい、残った1人が長官になるという結果になりました。
トップ4人とは、大統領の指名と上院の承認が必要なポストである特許商標庁長官、長官代理(deputy Commissioner、日本でいう技監)、特許副長官と商標副長官(Assistant Commissioner of Patent/Trademark)ですが、副長官(Lawrence J. Goffney氏とPhillip Hampton氏)は2人とも辞めて既に法律事務所に天下り(?)就職しています。長官が変わるとそれ以外のポストも差し替えられるのが慣例のようなので、解任される前に自分から就職口を探した、ということなのでしょうか(レーマン長官と折りが合わなかったという噂もありますが)。真実は定かでありませんが。情報元
・1998年9月22日付 IPO DAILY NEWS他
・Biography of Q. Todd Dickinson 同氏の経歴を写真入りで掲載
2. 米特許庁、家主に訴えられる米国特許商標庁のビルは、信じられないことに自前でなく貸しビルのテナントです。日本の特許庁のような立派な庁舎はありません。ですから、アメリカに旅行された方が「記念に特許庁の前で写真を撮りたい」としても、大理石の立派な表札の横で、ということはできないのです。(私のお薦めは、特許庁の博物館のあるビルの入り口。ビルの入り口のガラス戸に、特許庁のロゴが描き込まれています。残念ながらこの程度しか見つけられません。)
本日付けのテスコダイレクト株式会社知財訴訟ニュースサービスを見ると、ビルのオーナーが特許庁に対し提訴したとあります。
特許庁は以前から庁舎を現在の位置よりも南に移転しようと考えていました。移転の予定地は現在のバージニア州アーリントンでなく、アレクサンドリアです。(ちなみに、「ロケット・ドケット」で有名なバージニア州東部地区連邦地方裁判所もこの付近にあります。そして今回の提訴もここに出されています。)
しかし、巨大な賃貸人に出ていかれては大損と、家主であるスミス社は移転に反対しており、ロビー活動を行っていると聞きます。馬鹿げた話ですが、アメリカは個人を尊重するお国柄故か、「個人の利益を守る」行為がこのような形で現実として起こっているようです。(一部の営利企業の利権のために国の決定が左右される、もしもこれがグローバル・スタンダードを謳う国の実体であるなら、私には理解しがたい。)今回の訴訟は、詳しい経緯は知りませんが、おそらくはその一環でしょう。庁側としても、移転が決まらないと例えば早期公開制度が導入できない等、弊害が懸念されています。その後、ワシントンポスト紙に掲載された記事を読むと、どうやら提訴の理由は、主に特許庁による入札方法が公平でないとしてスミス社がクレームを申し立てているようです。特許庁は新庁舎として要求する施設の設備条件等を提示しており、これについて3社が入札を希望している模様です。すでに建築されたビルを所有しているスミス社としては、今の施設を改装して庁側の要求に応えるにはかなりの設備投資を余儀なくされるため、「このような庁側の設備施設の要求は無意味で税金の無駄遣い」、さらに「後からビルを新築する業者の方が条件を満たすには有利」と述べて反対しているようです。
情報元
・テスコダイレクト知財訴訟速報ニュース 1999/1/8 TESCO-Direct
・Charles E. Smith Cos. v. U.S. Government, General Services Administration
・1999年1月11日付 ワシントン・ポスト 「Smith Cos. Trying to Build a Case Against GSA Process」
by Maryann Haggerty
・作成 豊栖 康司 webmaster@toyosu.com
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